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『ブッデンブローク家の人々/トーマス・マン』~夏休みを待ちこがれた少年

6月6日はトーマス・マンの誕生日です。

『パウル・トーマス・マン(1875年6月6日 - 1955年8月12日)は
ドイツの小説家。
『ブッデンブローク家の人々』『ヴェニスに死す』『魔の山』
などが有名です。

今日、紹介するのは
『ブッデンブローク家の人々 下/トーマス・マン』
(岩波文庫)。

随分暑くなってきましたから、「夏休み」テーマに抜書きしてみました。

ブッデンブローク家の4代目にあたる
少年ハンノの「夏休み」です。




ブッデンブローク家は、北ドイツのリューベックで商会を営む地元の名士です。
商売は大きく成長し、
一家は非常に裕福な生活をおくっています。

4代目にあたる少年ハンノ(ヨハン)は、
腺病質で、芸術を愛する夢想家。
大事な跡取り息子なのですが、
まるで商売には向いていません。
ハンノが愛するのは芸術、特に音楽なのです。

勉強も学校も苦手。
そんなハンノが待ちこがれているのは
毎年トラーヴェミュンデで過ごす、療養ホテルでの夏休みです。



学校がつらいから、よけいに夏休みが待ち遠しい。

海岸での夏の休暇!それがどういう幸福を意味するのか、理解できる人がどこかにいるだろうか?学校生活の無数の日々がのろのろと不安な単調な歩みをつづけたあと、誰からもわずらわされない、不安のない、一人だけの生活が、一か月のあいだつづき、海草の匂いにみたされた、おだやかな波のざわめきにみちた生活がつづく一か月、・・・・・・・最初は一目で見渡せないほどの、数え切れないほどの、いつか終わる日が来るなどとは口にするのは罰当たりな暴言である一か月。


最初は、なくなりそうにはない夏休み。
そして四週間ぼっちの夏休みの最初の一日が始まった。最初は終わることが考えられない幸福な二十八日に感じられたが、最初の何日かがすぎてしまうと、絶望するほど速く過ぎてしまう夏休みの二十八日。


何もかもいつもと違う生活。
ハンノは嬉しくてたまりません。

部屋のバルコニーで、または大きなぶらんこのある下の児童遊園地の前の大きな栗の木の下で,朝の食事をした。-そして大急ぎで洗濯をされたテーブルクロースが、給仕の手でテーブルの上に広げられるときに、ただよってくる洗濯のにおい、薄葉紙のナプキン、いつものパンとはちがうパン、家で玉子を食べるときの骨製の匙とは違って、お茶の普通のスプーンを使って、金属のコップから玉子を食べるのもーすべてが、ヨハン少年には喜びであった。


のびのび自由にできるハンノ。

朝食の後に続くすべても、のんびりとしていて、軽快で、すごくのびのびとしていて、神経が行き届いた幸福な生活であって、誰にも乱される心配がなく、少しも苦労がなくて過ぎていった。


しかし、休みはどんどん過ぎていきます。
それを認めたくないハンノ。

こうして二週間が過ぎ、ハンノは、これからまだミカエル祭の秋の休暇と同じ日数が残っていることを考え、聞いてくれる人たちに力言もした。しかし、これははかないなぐさめであった。夏休みの前半が終わってしまうと、後半は下り坂になって、最後の日に向かって一目散にくだり始め、さっさと、恐ろしくさっさと過ぎ去り、ハンノは、その毎時間にしがみついて、通り過ぎるのを引き止め、幸福をうっかり浪費してしまわないために、海岸の空気を吸い込むのを怠るまいと考えた。


ついに、3日前になりました。
それでも「まだまだ休みはある」と考えようとします。

あとまだ三日ある、とハンノは考え、精霊降臨節の休暇と同じ日数があることを、自分でも考え、みんなにも理解させようとした。

ついに夏休みは終わり、
帰りの馬車でハンノは涙ぐんでしまうのです。

海辺での休暇でハンノが健康になることを家族は期待しているのですが、
平和な日が続くために、かえってハンノは傷つきやすくなってしまうのでした。


そして、苦痛の学校生活に戻っていきます。

ハンノの毎朝はこんなふうです。
なかなかベッドから出られません。

ああ、あとほんの二分間ほど、ねえ?とハンノは枕に向かってあふれるような愛情をこめて話しかけた。それから、ままよと考え、たっぷり五分間寝ていることにして、少し目を閉じ、ときどき片目を開けて、暗澹として気持ちで時計の針を見つめたが、針はハンノの気持ちにおかまいなく、無心に正確に時を刻みつづけていた。


夏休みが減っていくほど、それを認めたくない気持ちが強くなる、

誰にも覚えがありますよね。

物語では、
ブッデンブローク家の商売は、不幸続きで傾いてしまい、
ハンノも大人にならないうちに、チフスで死んでしまいます。

それを思うと
夏休みを待ちこがれたハンノの気持ちが、ますます切なく感じられます。

ハンノには、もっともっと
たくさんの夏休みをあげたかった。


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