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『東方奇譚/マルグリット・ユルスナール』~「源氏の君の最後の恋」

『東方奇譚/マルグリット・ユルスナール』の紹介です。

マルグリット・ユルスナール( 1903年6月8日 - 1987年12月17日)は
フランスの小説家。
『東方奇譚』は、ヨーロッパから見て東方に位置する国々の不思議な物語、
神秘な物語の短編集です。

その中から、日本をえがいた作品を紹介します。
『源氏の君の最後の恋』
紫式部が隠した光源氏の最後を、ユルスナールがえがき出しました。

ユルスナールが「源氏の最後をみとる特別な人」として選んだのは、花散里です。

4560070695東方綺譚 (白水Uブックス (69))
マルグリット・ユルスナール 多田 智満子
白水社 1984-12

by G-Tools



○やってきたのは花散里

50歳を迎える源氏は、ひっそりと死を迎えることを念頭におき、田舎に引き込みます。
源氏は人々から憐れに思われることを恐れ、都との交流を徐々に絶っていきました。

源氏は客人たちに もはや憐憫と敬意しか起させないのではないかと怖れていた。
この二つの感情は彼にとって厭わしいもので、むしろ忘却のほうが望ましかった。
悲しげに首を振って、かつて詩と書の才で誉れ高かったこの貴人は、使者に一葉の
白紙をもたせて返すのであった。少しずつ、都との音信は間遠になった。


花散里は手紙の返事が来ないのに業を煮やし、供を連れてやってきます。
ところが「他の妻たちを思い出す」という理由で、源氏は花散里を追い返しました。

還らぬ昔の日々の痛切な想い出をよび起すこの女を前にして、苦い怒りが彼を
とらえた。この女の存在以上に、彼女の袖が彼の亡くなった妻たちの用いていた
香のかおりにひたされていることに、心がかきみだされたのである。



○花散里の変装

花散里は諦めません。
若い百姓娘に変装し、視力を失いつつある源氏に近づきます。
このようにして、十八年以上も彼をつつましく慕いつづけてきた花散里は
再び源氏の君の情人となりました。

彼女は色事にははじめての若い娘らしく涙や臆病さをまねることを忘れなかった。
彼女の肉体はおどろくほど若々しかったし、彼の視力は若干の白髪を見分げるには
あまりに弱りすぎていた。

ところが百姓娘(=花散里)は「実は源氏と知っていて、情けが欲しくて近づいた」
ともらしてしまい、源氏の怒りをかって追い払われます。

○花散里の二度目の変装

花散里は、源氏が完全に視力を失うまで待つことにしました。
そしてころ合いを見計らい、人妻中将を名乗って、再び源氏の前に現れます。

彼は女の髪をなでた。ややあって彼はたずねた。
 -そなたの夫はわたしより美しくはないか、若くはないか、大和の国の妻よ?
 -夫はあなたさまほど美しくなく、また若いとも見えませぬ、
と花散里はあっさりとこたえた。
 このようにして彼女は新たな擬装のもとに、昔身を捧げた源氏の君の情人となった。


やがて源氏は、自らの身分を打ち明けますが、
中将(=花散里)は、細やかな心遣いで源氏を喜ばせます。

源氏の君がどのようなお方か、存しませんでした。今では、そのお方が殿方のなかで
世にも美しく、女という女に慕われたお方と存じております。
でも、あなたさまは、愛されるためには源氏の君である必要はございませぬ。



○源氏最後のとき~花散里のあわれ

ついに源氏は死の床につきました。
源氏は妻や恋人たちの名前をひとりずつあげて、なつかしい思い出にひたります。
花散里が変装した百姓娘の名前も、中将の名前もあげました。
ところが、「花散里」の名前だけは、思い浮かばないのです。
花散里は嘆きます。

-お館には、いま名をおあげにならなかったもうひとりの女が居りませんでしたか? 
やさしい女だったでしょうに。そのひとの名は花散里ではありませぬか? 
想い出してくださいませ・・・



しかし源氏は「花散里」のことは一言も口にしないまま、この世を去ってしまいました。

花散里はあらゆる慎しみをかなぐりすてて、泣き叫びながら地にひれ伏した。
しおからい涙が雷雨のようにはげしく頬を流れ、両手でかきむしった髪は
ひきちぎった絹綿のように逆立った。
源氏が忘れていた唯一の名はまさしく彼女の名であったのだ。



優しいがゆえに悲しい花散里。
ユルスナールのえがく幽玄の世界をお楽しみください。




8月に『ろうそくの炎がささやく言葉/管啓次郎・野崎歓編』の紹介をいたしました。
この本の執筆者の方々が選んだ「ともしびとなる本」のブックレットがあります。

『東方奇譚/マルグリット・ユルスナール』は、
小沼純一(詩人、音楽・文芸批評、早稲田大学教授)さんの推薦本です。

参考記事
8月18日ブックレット『ろうそくの炎がささやく言葉』が出ています~本の連鎖を楽しもう
8月10日『ろうそくの炎がささやく言葉/管啓次郎・野崎歓編』



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